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ダックスフンドの顔が腫れる原因は、外傷性のものから、歯周病によるもの・良性もしくは悪性の腫瘍・ワクチン接種の影響による腫れ・他の生き物に咬まれたり刺されたりして腫れるなど、様々です。
原因を探すには、普段から犬の様子を良く観察しておくことが大切です。いつから腫れているのか、大きさに変化はないか、腫れる原因に思い当たる事はないかなど、考えてみましょう。
ダックスフンドの顔が腫れた場合、顔の表面に原因がある他にも、口腔内や鼻の病気になっている可能性があります。症状別に考えられる病気の可能性を解説します。
片側だけ頬が腫れる病気に、根尖周囲膿瘍(こんせんしゅういのうよう)という口腔内の病気があります。
歯根の先端部分(根尖部)の周囲に膿瘍ができることを言い、多くは歯周炎が酷くなることにより起きますが、歯の破折などにより歯髄(しずい)が露出したときに歯髄炎から波及して起こることもあります。
歯周炎が進行すると、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)の破壊が進み、歯根周囲の歯槽骨が広い範囲で破壊され、そこには腐った組織が残ります。
そして、歯周ポケットの表面に腐った組織や膿の一部が見えてきます。この膿が出ている状態が、いわゆる「歯槽膿漏」です。
上顎の臼歯から、眼の下にかけて膿の出る穴が形成されることで、頬が腫れた状態になります。さらに進行すると、溜まった膿が皮膚を破り、眼の下に穴を開け、排膿することもあります。
眼の下が腫れる他にも、口臭がきつくなる・口を触らせなくなる・顎が腫れる・歯磨きで出血する・食べ方がいつもと違うなどの症状がみられます。
口腔内から鼻腔にかけて貫通してしまうと、くしゃみや鼻汁などの症状が出ます。
反対に、下顎の歯槽骨が破壊されると、下顎骨がもろくなり、ダックスフンドなどの小型犬では硬いものを咬んだり衝撃が加わったりしたことがきっかけで「下顎骨骨折」を引き起こすことがあります。
狂犬病や混合ワクチンの接種後や、ハチに刺されたりヘビに咬まれることによりアレルギー反応を起こす場合があります。ダックスフンドは比較的アレルギーを起こすことが多い犬種です。
アレルギーには即時型アレルギーと遅延型アレルギーがあり、どちらの場合でも、顔の腫れが出る可能性があります。アレルギーで顔が腫れることを、顔が丸くなることから「ムーンフェイス」とも言います。
即時型アレルギーでは、ワクチン接種後数十分以内に反応が見られ、重症度が高い事が特徴です。特に怖いのが、即時型アレルギーの1つである「アナフィラキシーショック」です。
アナフィラキシーショックは呼吸困難やチアノーゼ・顔の腫れ・蕁麻疹・低血圧・低体温・虚脱・下痢などの症状がみられ、放っておくと死に至る危険性があるため、直ちに動物病院での迅速な処置が必要です。
遅延型アレルギーは、ワクチンを接種してから数時間~数日後に症状がみられます。
顔の腫れ、接種部分の痛み、浮腫、痒み、蕁麻疹、下痢などが見られますが、即時型アレルギーと比較すると緊急を要するにケースは少ないと言えます。
ハチに刺されたりヘビに咬まれたことによる アレルギー反応や、怪我で顔が腫れることもあります。
ハチの繁殖期は9月中旬~10月中旬で、この頃は縄張り意識が強くなります。日本で問題となるハチは「キイロスズメバチ」と「オオスズメバチ」です。
キイロスズメバチは名前の通り、模様の黄色の部分が多く、全体的に黄色に見えます。樹木の隙間・民家の軒下・床下・天井裏など様々な場所に巣作りする、遭遇率の高いハチです。
スズメバチ類の中でも一番攻撃性が高く、特に犬が飼育されている民家に巣作りしている場合は犬の縄張りと重複するため、犬の鳴き声に警戒して攻撃をしてくることがあるので注意が必要です。
オオスズメバチはスズメバチ類の中で最も大型で、体長が3~5cmあります。巣は地面や倒木など目立たない場所に作られるため、発見しにくく、犬が気づかずに近付いて襲われることが多いようです。
ハチの主な毒は「神経毒」と呼ばれる神経に特異的に作用するものですが、多くの成分によって構成される「混合毒」を有しています。そのため、毒液が注入された部位は炎症を起こし、腫れや痛みを引き起こします。
ただし、通常はハチの毒による炎症で死に至ることはありません。死に至る状況が起こるのは、前述したワクチンのアレルギーと同様、「アナフィラキシーショック」を起こしてしまうからです。
ハチの毒は、他の生物よりもアレルギー反応を起こしやすい傾向があるため、毒の弱いミツバチであっても油断は禁物です。
刺されると犬は患部を舐めたり、気にして引っ掻いたりします。顔や口まわりを刺された場合、よだれを垂らしたり頭を振ったりもします。
スズメバチ類は通常、針を残していくことはありませんが、ミツバチの多くは毒の入った袋である「毒嚢(どくのう)」のついた針を残していきます。
毒嚢は放っておくと自然に縮み、犬の体に毒液が注入されてしまうため、出来るだけ早く除去する必要があります。
指でつまんでしまうと指で毒嚢を押し潰す形となり反って毒液を注入してしまうので、刺された部位を確認して、針が残っていたら毛抜きかピンセットで慎重に取り除くか、カード等を使い弾き飛ばすように除去しましょう。
その後流水で洗浄し毒液を絞り出しますが、犬が痛がり暴れてしまう場合には無理をしないようにします。
ハチの毒は水に溶けやすいので、流水で流しながら絞り出すことで体内に留まる毒液の量を減らし、炎症を軽減することが出来ます。洗浄後は腫れた部位を冷やしましょう。
本州にいるヘビで問題になるのは「マムシ」と「ヤマカガシ」です。
マムシは、水辺や草むら・土手・森林・山地などあらゆる場所に生息しています。毒の量は比較的少ないですが、ダックスフンドなどの小型犬では死に至ることがあります。
ヤマカガシは水田や河川の近くに生息しており、臆病なので滅多に襲ってくることはありません。牙が口の奥の方にあるので、よほどしっかり咬まれなければ毒液は注入されませんが、抗毒血清がないため注意が必要です。
また、首の後ろにある分泌腺から毒を分泌することが出来るので、犬がヤマカガシの首をくわえると毒の影響を受ける場合もあります。
犬は口や足を咬まれることが多く、痛みのため前足で顔をこする動作を行ったり、正常でない歩行の様子がみられます。
マムシでは「出血毒」、ヤマカガシでは「血液毒」をもっており、毒の種類によって症状が異なります。
マムシの出血毒の場合、毒が筋肉や血管の組織を破壊するため激しい痛みと腫れを引き起こします。
この症状は咬まれた直後から始まり、次第に広がっていきます。進行するにつれ、皮下出血や吐き気が起こり、二次的に麻痺も起こります。
ヤマカガシの血液毒の場合、毒が血液の凝固を妨げるため、咬まれてから20分~数時間で全身に毒が広がます。血尿や血便・皮下出血・腎機能障害を起こしますが、咬まれた箇所は腫れず、痛みも少ないのが特徴です。
飼い主さんの見ていないところで咬まれることも多いため、ヘビに咬まれた疑いがある場合は全て毒ヘビに咬まれたものとして対処しましょう。
ヘビの毒はハチの神経毒と違ってゆっくり拡散しますが、犬が活発に動いてしまうと毒が早く回ってしまいます。歩かせたり暴れたりさせず、なるべく早く動物病院を受診します。
大人しくしているようであれば、感染を防ぐために大量の流水で洗浄します。この時、ゴム手袋かビニール袋を使い直接触れないようにします。
外傷が原因となって顔が腫れるものに「皮下膿瘍」があります。
ケンカなどで出血を起こしたり、皮下に達するような傷を負った場合には、傷の大きさに関わらず膿瘍が形成されることがあります。マダニなどの咬傷部位から細菌感染を受けてできる場合もあります。
また、良性の腫瘍である「脂肪腫」により顔が腫れることがあります。脂肪細胞が増殖することにより出来る腫瘍で、場所や広がり方によって、皮下脂肪腫・筋間脂肪腫・浸潤性脂肪腫に分類されます。
ぶよぶよした感触で通常は1つだけ発生し、ゆっくりと大きくなるためそのほとんどは無症状です。体腔内に脂肪腫が発生することもあります。
非常にまれに「脂肪肉腫」という悪性腫瘍がみられることもありますが、悪性の場合はやや硬い触り心地で、急速に大きくなります。診断を確定するには病理検査で確認する必要があります。
「口腔内腫瘍」や「鼻腔内腫瘍」が原因となり、顔が腫れる場合があります。
口腔内腫瘍が発生する場所は、歯肉や口腔粘膜・歯槽骨・舌・口唇など様々で、約7割が悪性と言われています。良性のものでは歯肉腫、悪性では悪性黒色腫・線維肉腫・扁平上皮癌があります。
口臭や口からの出血、ものを食べづらそうにするなどの症状がみられ、多くの場合、口を開けて観察することで容易に発見することが可能です。
鼻腔内腫瘍では、良性のポリープから悪性の腺癌・扁平上皮癌・線維肉腫・リンパ腫・骨肉腫・軟骨肉腫があります。ダックスフンドなど、鼻の長い犬種に比較的多く発生します。
症状としては膿性または血混じりの鼻水、いびき・くしゃみ・顔面の変形・呼吸困難などがみられます。
ダックスフンドの顔の腫れは、原因に対して的確に治療することが大切です。応急処置が必要な場合もあるので、冷静に対処しましょう。
根尖周囲膿瘍の治療は、全身麻酔の処置が必要です。通常は原因となっている歯の抜歯し、洗浄した後抗生物質などの薬剤を詰めて、縫合できるようであれば縫合します。
抜歯をせず、歯の壊死した歯髄を取り除き、薬剤を詰める治療方法もあります。
ハチに刺された場合では、まず前述した方法で針を除去し、流水で洗い流す処置を行います。
応急処置後は、抗ヒスタミン薬やステロイドの軟膏を塗り、患部を冷やしておきます。アナフィラキシーを起こしている場合はエピネフリンなどの薬剤を投与します。
ヘビに咬まれた場合は、まず大量の流水で洗浄してから、抗毒素血清を投与したり抗生物質や輪液などの対処療法を行います。
皮下膿瘍では、局所麻酔あるいは全身麻酔を処置し、患部の皮膚を切開し、内容物が漏れ出さないように摘出します。切開して出来た穴は洗浄し、抗生物質の軟膏を処置します。さらに、必要に応じて抗生物質を投与します。
口腔内腫瘍では顎の骨を含んだ拡大切除の手術のほか、放射線治療や抗癌剤の投与などを行います。
鼻腔内腫瘍でも同様に、手術や放射線治療、抗癌剤による治療を行いますが、いずれの治療をしても悪性腫瘍の場合の治癒率は低いと言えるでしょう。
ダックスフンドの顔の腫れは、腫れる原因にもよりますが、予防できるものがあります。
根尖周囲膿瘍の多くは歯周炎が酷くなったことによるものなので、普段から歯磨きをし、必要であれば歯石除去を行います。
犬の歯垢は3~5日で歯石に変化していくので、歯石になる前に歯磨きで除去しておくことが大切です。幼い頃から歯磨きに慣らしておきましょう。
歯の破折も原因となるので、歯が欠けるような硬いおもちゃは与えないようにし、散歩で石など硬いものをかじる癖があればリードを短くし、咬ませないようにします。おやつで与える牛の骨、子ブタのひづめ、アキレス腱なども破折の原因となります。ハサミで切ってみて切れないものは硬すぎます。
ワクチンアレルギーを完全に予防することは困難ですが、体調不良時はワクチンを見合わせ、過去にワクチンアレルギーを起こした経験のある子や、ワクチン以外でもアレルギーの疑いがある場合は獣医さんに伝えます。
前もって伝えておくことにより、接種前に抗アレルギー薬を投与したり、ワクチンの種類を変えることができます。
ハチやヘビには遭遇しないことが一番です。草むらや、ハチが潜んでいそうな茂みにはむやみに近寄らないようにします。
犬用の服を着せることも効果的ですが、夏場は熱中症になりやすいので服の素材には気をつけましょう。