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てんかんは痙攣発作を起こす代表的な病気ではありますが、必ずしも痙攣が見られたらてんかんを患っている、という訳ではありません。
痙攣を示す病気は、てんかん以外にも熱中症・脳腫瘍・腎不全・有機リン中毒(殺虫剤中毒)・低カルシウム血症・脳の炎症性疾患(犬ジステンパーやクリプトコッカス症)といった病気があります。
痙攣の原因がてんかんかどうかを特定するには、検査などによりこれらの病気をひとつひとつ除外していきます。また、原因を明らかにするために頭部のCT検査やMRI検査および脳脊髄液の検査も実施します。
てんかんの原因は、大きく2つに分けられます。
てんかんの多くは原因不明の特発性てんかんです。
特発性てんかんは遺伝的な要因で起こると考えられており、通常1~5歳までに発症するとされています。
どの犬種にも起こり得ますが、特にトイプードル、ビーグル、ミニチュア・ダックスフンド、コリー、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、シェットランド・シープドッグなどでは発症率が高いとされています。
脳に頭部外傷・脳炎・脳腫瘍などの器質的病変はなく、他の神経症状は伴いません。血液検査や神経検査、CT検査・MRI検査・脳髄液検査をしても結果に異常は認められません。
発作は数週間~数ヶ月と定期的な間隔で再発することが多く、進行性の疾患のため発作の頻度と重症度は徐々に増します。
完治することは困難で、基本的には生涯に渡り抗てんかん薬を服用し、薬の血中濃度を一定に保つ必要があります。
症候性てんかんでは、水頭症や頭部外傷・脳炎・脳腫瘍などの病気が原因となり発作を生じます。
8歳以上の高齢犬に起こりやすく、CT検査、MRI検査、脳脊髄液検査などで異常を認めます。
てんかんの原因となる疾患を治療することで発作が起きなくなる可能性があります。
てんかんには部分発作と全発作があります。
部分発作は、一般的には意識は消失せず、脳が部分的に興奮状態になり、顔面や四肢など身体の一部に痙攣が起きている状態です。
脳の意識に関係する部位が興奮した場合では、呼び掛けに反応しなくなる、大量によだれを流す、瞳孔が開くといった様子がみられます。
全発作では、脳の広範囲に渡り興奮状態が起こり全身が痙攣し、転倒して意識を消失します。
がたがたと身体を震わせるようなで痙攣ではなく、首を反らせたり、屈伸運動を繰り返すような四肢を突っ張らせるいわゆる「ひきつけ」の様子がみられます。
この痙攣発作は通常数十秒続き、大量のよだれ、排尿・排便・立毛などを伴います。
その後数分間、遊泳運動(空中を泳ぐような仕草)や、食べ物などを噛み続ける咀嚼(そしゃく)運動、失明などを起こしたり異常行動が続くこともあります。
てんかん発作は、騒音や光などの刺激が多い場所で発生リスクが高くなる傾向があります。そのため、出来るだけ静かで落ち着ける環境を作ってあげることを心掛けましょう。
トイプードルがてんかんを起こす際には、まず前兆となる前駆症状がみられます。
一般的に舌なめずりをする・挙動不審になる・気分の変調・飼い主さんについて回る・食欲不振・沈うつ・流涎・元気がなくなる・神経質になる・部屋の隅に隠れるなどの様子があります。
その子によって前駆症状は様々なので、普段から小さな様子の変化を見逃さないように観察しましょう。
てんかんの発作が始まると、痙攣・よだれを流す・意識の消失・呼吸困難・発熱・嘔吐・失禁・うなり声・咀嚼運動や遊泳運動などの症状がみられます。
てんかん発作後は、落ち着きがなくそわそわしたりぼーっとする他、ふらつき・失明・不整脈などが見られます。
また、てんかんでは神経が過敏になる状態が続くため、吠える頻度が増えることがあります。
中には発作前に不安で吠え始め、発作中は連続的に鳴き、発作後も落ち着くまでは暫く鳴きっぱなしになる子もいます。夜中に飼い主さんが眠れなくなったり近所迷惑になってしまうケースもあります。
てんかん発作は非常に危険を感じる症状を起こしますが、まずは飼い主さんが落ち着いて行動を取る必要があります。
発作が始まるとトイプードルは無意識に身体をバタバタと動かしてしまうので、これらの症状が見られたらまずは犬の安全を確保します。
犬が怪我をしないように、ぶつかると危険な物が近くにあれば遠ざけましょう。
もしソファーの上など落下する危険性のある場所にいれば、床など安全な場所に降ろします。トイプードルは骨が細いので、ソファーの高さから落下しただけでも骨折してしまう場合があります。
そして、テレビや音楽などを消して、近くにいる人は大きな声で話したりしないように気をつけます。
初めての発作では難しいですが、2回目以降の発作が起きたときに可能であればスマートフォンなどで動画を撮影しましょう。また、発作のタイミングや時間を記録しておきましょう。
発作の記録は、後に動物病院を受診した際の診察に大いに役立ちます。
発作中のトイプードルにはむやみに手を出してはいけません。正常な判断が出来なくなっているので、悪気がなくても飼い主さんに強く咬みついてしまうことがあります。
また、触ることが刺激になり症状を悪化させてしまう可能性もあります。
但し例外として、嘔吐の症状がみられる場合では吐いたもので気道が詰まり窒息してしまう危険性があるので、口の中に吐いたものがあれば除去する必要があります。
噛まれないように十分注意して取り除きましょう。
発作が終わるまではトイプードルのそばにいて様子を観察し、発作が終わったら優しく声をかけるなどして安心させてあげましょう。そして、速やかに動物病院を受診するか、往診してもらいましょう。
1回に起こる発作が5分以上続いている場合や、完全に発作の症状が回復する前に更に次の発作が連続して起こる状態を「重積」と言います。
てんかんになると寿命が短くなる、というわけではありませんが、重積状態になったり、24時間以内に2回以上発作が起こる「群発発作」が起こると脳へのダメージが蓄積されます。
その結果脳腫瘍や脳浮腫などが引き起こされることがあるため、寿命が短くなる可能性は否定できません。
通常のてんかん発作で亡くなることはほとんどありませんが、重積発作の状態で放置したり、数時間の痙攣発作が続くと回復することなく亡くなってしまうケースもあります。
そのため、痙攣が続くような場合は一刻も早く止めてあげる必要があります。
動物病院では重積状態の場合、血管から抗てんかん薬を入れ、早急に痙攣を止める処置が行われます。治療が遅れると後遺症が残ってしまうことがあります。
1回の発作で治まらない場合は、様子を見ずに動物病院へ連れていきましょう。
てんかんをもつトイプードルに留守番させるときは、いつ発作が起きても大丈夫なように安全な環境で過ごさせる必要があります。
騒音や光などの刺激が少ない部屋で、適正な室温管理が出来るようエアコンを設定します。
広い部屋に自由に過ごさせると、発作が起きた時に思わぬ怪我をする可能性があります。
ゲージなど限られた空間で過ごさせ、周りにクッションを置いたり、バスマットなどで囲うなどしてぶつかっても怪我をしない環境を作りましょう。
発作を起こすと大量によだれを垂らしたり失禁することもあるので、床にはペットシーツを敷いておきましょう。
また、少し費用がかかりますが、ペット用の見守りカメラを設置しトイプードルを見守る方法もあります。
外出先からでもスマートフォンやタブレットからトイプードルの様子を確認することが可能なので、発作の様子を観察したり、もしもの時に迅速に行動することが出来ます。
現在販売されているものは会話機能・自動給餌機能・暗視機能・録画機能を備えたものや、温度センサー付きでエアコン操作まで出来るものがあります。
価格は数千~数万円と様々です。購入を検討する際には家の間取りやいつ見守りたいのかなどを考え、どの機能が付いたものが必要かを考えて購入しましょう。
原因不明のてんかんでは、発作を完全に予防することは困難です。そのため、発作の回数を減らす・症状を軽くする・発作の時間を短くするといったことを目的とし、抗てんかん薬を継続的に飲ませ発作をコントロールします。
発作が落ち着いているからと自己判断で薬の服用を中止することはやめましょう。
発作のない状態=完治したという訳ではなく、発作の出ない状態を維持出来ている、ということです。治療に関しては獣医師の指示に従い、薬の服用を中止したい場合も必ず相談しましょう。
また、ストレスや環境の変化は発作を起こすきっかけとなることがあります。
知らない人が苦手であれば極力合わせないようにしたり、雨の日の散歩が嫌いであれば室内で過ごさせる、大きな物音を立てないなど、ストレスのかからない生活環境を整えてあげましょう。
季節の変わり目や台風、豪雨の日など、天候の変化で発作を起こす子もいます。
気圧を管理することは困難ですが、気温や湿度はエアコンや加湿器を使用してコントロールし、天候が変わりやすいと分かっていれば発作が起きたときに備えておきましょう。
また、テレビの電源を入れたときに発作を起こす・雷が鳴ると発作を起こす・新聞配達員が来ると発作を起こすなど、その子によって発作のきっかけになるものがおおよそ決まっていることもあります。
これらも記録をとっておくと、発作の傾向を把握し発作に備えることに役立ちます。