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まずはアビシニアンという猫種の飼いにくさや性格を知る前に、そのルーツや特徴について知っておくと、性格や飼い方を把握しやすくなるのでご紹介します。
アビシニアンは最も歴史の長い家猫で、1868年に現在のエチオピアのアビシニアからイギリスに渡り、この名前が定着しました。
またアビシニアンはその威厳と優雅さから、古代エジプトでは女神バストの化身として崇拝されていた猫の子孫とも言われています。
アビシニアンはタビーと呼ばれる独特の毛色をしており、被毛の1本1本がいくつかの色に帯状に分かれているため、光の具合で微妙な輝きを放ちます。
筋肉質でしなやかな身体つきと、ピンと立った大きな耳や目を持つ、見ているだけでも飽きない猫です。しかしそれ程美しい猫のアビシニアンですが、ある瞬間手が付けられないほど狂暴化することがあります。
突然スイッチが入って狂暴化することがあるアビシニアンですが、基本的には「マンションキャット」と呼ばれほど鳴き声が小さく、成猫になると大人しい猫種です。
好奇心が旺盛で知能も高く、名前を呼ぶと飼い主の所まで来ます。しかし知能が高い分、少し神経質なところがあり、人の動きや環境の変化を敏感に察知する面もあります。
また甘えん坊で嫉妬深く行動的な性格でもあるため、飼い主さんが同居している猫や子供ばかりを可愛がっていると、相手を問わず攻撃をすることがあります。
また短毛種は長毛種より野生に近く、動くものに対して敏感に反応します。その行動を見て狂暴と判断する飼い主さんもいるため、アビシニアンは手が付けにくいと言われることもあります。
猫が狂暴化する時は、恐怖に怯えてパニック状態になっている時です。その姿はいつもの可愛らしいペットではなく、生きた凶器のように変化します。
アビシニアンではありませんが、筆者は知人のオス猫を動物病院に預けたことがあります。臆病で神経質なその猫は獣医師曰く、動物病院で一切水や食事を口にせず、排便すらもしませんでした。
その猫を預けてから数日後、病院から電話があり「限界なので引き取りに来てください」との知らせが届きました。その猫は怪我をした同居猫の傷口を舐めるため、1週間預けられる予定でしたが、その日に迎えに行きました。
ところがその猫は、飼い主である知人のことも分からない程パニック状態になっており、「シャー、シャー」と威嚇をし、今まで見せたことのない異常な目付きをし、もはや野良猫の姿でした。
優しくその猫の名前を呼んでも威嚇するばかりでしたが、いつまでも動物病院にはいられないので、キャリーケースに移動させようとしたところ、病院のケージから飛び出してしまいました。
その猫は病室の壁を駆け回り、それはまるで山猫を見ているようでした。素手では到底捕まえることはできず、動物のプロである動物病院のスタッフすらも困り果てていました。
恐怖に怯えて狂暴化したその猫は、動きが素早すぎてグローブを装着した状態でも捕獲できませんでした。最後はその猫がキャリーケースの近付いたところを後ろから押入れ、連れて帰りました。
このように狂暴化した猫は、人間では手が付けられない程、暴走するので決して怒らせてはいけません。
前述の通り、猫はスイッチが入ると狂暴化することがあります。室内で山猫と化した家猫に威嚇しながら駆け回られたら、かなり恐ろしいです。
アビシニアンは知能も高く、環境の変化を直ぐに察知します。また多少神経質なので、気に入らないことがあると一部のアビシニアンは狂暴化する場合があります。
しかしアビシニアンに限らず、猫が狂暴化するには原因があります。飼い猫が狂暴化して手を付けられなくなる前に、猫が狂暴化する理由を知っておくことが大切です。
知能が高くていたずら好きな性格をしているアビシニアンは、ソファーの上で駆け回ったり爪を研いだりすることがあります。しかしその程度の行動はやんちゃであり、狂暴とは言えません。
前述でご紹介した筆者の知人の猫のように、狂暴化した猫は飼い主のことが分からなくなります。そして自分に嫌な思いをさせている人間や猫等を敵と判断します。
その敵に向かって初めは「シャー」という威嚇の声を上げます。その後シッポを膨らませながら「フォーッ」「カッカッカッ」等という鳴き、攻撃態勢に入ります。
そして「フー」「ギャアアア」と言いながら口を大きく開け、背中の毛を膨らませたら怒りで相手を攻撃します。この状態まで狂暴化した猫は、飼い主さんでも触るのは困難です。
アビシニアンが狂暴化して飼い主さんに攻撃を仕掛ける時は、きっかけとなる変化や行動があります。以下ではその変化や行動をご紹介するので、自身の行動を振り返って狂暴化の原因を突き止めて下さい。
アビシニアンの性格が最も豹変するきっかけが引越しと言われています。引越しによって室内の環境が変化したり、窓の外に知らない野良猫がいたりすると、アビシニアンにとって落ち着かない状態が続きます。
その結果、ストレスを溜め込んで狂暴化する場合があります。アビシニアンは数ある猫種の中でも住環境の変化に伴うストレスに敏感で、そのストレスを解消するための行動が過激です。
人間や同居している動物を噛んで怪我をさせるまでの行動に移さなくても、おもちゃの扱いが雑になったり、水やご飯の食べ方がガサツになったりした場合は、狂暴化の兆しがあります。
いつもより長く遊んであげたり、好きなおやつを与えたりして、飼い主さんから積極的にコミュニケーションを取ることを心掛けて下さい。
梅雨頃から暑い真夏にかけて、グレープフルーツやオレンジ等の柑橘系の香水やアロマが多く登場します。老若男女を問わず使える香りなので、非常に人気の高いフレグランスですが猫には悪臭です。
猫は柑橘系の酸っぱい匂いを毒と判断します。それは食べ物が腐った時に発する酸っぱい匂いと直結するためです。そのため、猫が粗相をした時のしつけ用アイテムの中には、柑橘系の匂いがするスプレーもあります。
柑橘系の匂いは人間にとっては気分をリフレッシュさせてくれますが、猫には悪臭なので毎日のように室内で柑橘系の香りのアロマを焚くと、アビシニアンはイライラして狂暴化することがあります。
最良の対策は無臭にすることですが、猫は乳製品や甘い匂いが好きなので、アロマを焚いたり芳香剤を置いたりする場合は、優しい匂いを放つミルキーな香りがおすすめです。
子供や活発な人、同居している若い動物等は動きが激しいため、知らぬ間にアビシニアンに恐怖を与えている可能性があります。
大人しいアビシニアンの場合、家の中で体操をするだけでも嫌がります。そのため大きな音や声には注意が必要です。
アビシニアンは甘えたがりで、嫉妬深い一面があります。そのため新しい家族となる人間の赤ちゃんや子猫が突然現れたら、嫉妬のあまり攻撃する場合があります。
アビシニアンに限らず、猫は先住している猫に縄張りの優先権があるため、新しく家族を迎え入れる場合、新入りは別室で過ごして徐々に慣れさせましょう。
飼い主さんによっては、しつけと称して叩く人がいます。また可愛さ余って過度にスキンシップを取りたがる人もいます。しかしこれらの行動はアビシニアンには苦痛でしかありません。
そのため、アビシニアンはこれらの行動から逃れ、自分を守るために狂暴化することがあります。飼い猫に触れる時は彼らの意思を尊重し、優しく撫でましょう。
最後に、病気が原因で狂暴化する理由をご紹介します。神経系に関係した疾患または脳に関係した病気によって、突然狂暴化することがあります。
猫が狂暴化する病気は知覚過敏症(ちかくかびんしょう)と言い、人間が冷たいものを食べると歯がしみる病気とは異なります。この病気は原因が分かっておらず、発症すると威嚇や異常なグルーミング等の行動が突然現れます。
また脳に関する病気では、肝性脳症(かんせいのうしょう)という病気が疑われます。肝性脳症は血中のアンモニアが肝臓に異常があるため排出できず、脳にまで達する病気です。
そのため肝硬変や肝不全を発症することで2次的に発症しやすいです。つまり、本来排出される筈の毒素が脳まで回っているため、異常な行動が見られるのです。
ここまで症状が進んでしまうと完治することは難しいでしょう。しかし放置しておくとより狂暴化が進む上、体内に毒素が充満してしまいます。病気が疑われる場合は、動物病院で受診することをおすすめします。
狂暴化といっても、その度合いによって付き合い方は様々です。
アビシニアンが狂暴化する場合、その程度は個体によって異なります。その理由はその猫が育ってきた環境や生まれ持っての性格によって、その後の性格が影響されるためです。
また全てのアビシニアンが狂暴化するのではなく、他の猫種に比べて狂暴化しやすい猫種であることを記憶に留めておいて下さい。
筆者の知人が飼育している動物病院で狂暴化した猫は、アビシニアンではなく子猫の時に保護した野良猫でした。普段から神経質な性格で、窓の外に見知らぬ猫がいると毛を逆立てて恐ろしい声を上げていました。
そのような時は飼い主である知人でも触ることができず、カーテンを閉めて対応をしていたそうです。つまり、一概にアビシニアンだけが狂暴化するわけではありません。狂暴化は全ての猫に共通しています。
飼育しているアビシニアンが狂暴化した場合は、その興奮状態を静めるために速やかに隔離して下さい。決して抱き上げて落ち着かせることはしないで下さい。怪我をする恐れがあります。
隔離をする場合は、危険物の無い部屋に落ち着くまで閉じ込めましょう。また部屋が用意できない場合は押し入れやクローゼットに閉じ込めて良いです。
そして緊急事態に備えてキャットケージがあると便利です。日頃から使っていれば、自身の匂いがするケージの中はその猫にとって安心できる場所になります。ケージに布を掛けて、外が見えない状態にするとより安心します。
続いて、アビシニアンが狂暴化した際の飼い主さんが取るべき態度をご紹介します。アビシニアンに限らず、狂暴化した飼い猫を隔離する場合、飼い主さんは毅然とした態度で臨んで下さい。
猫は怯えた態度でいる相手を獲物や格下と判断して攻撃をします。特に狂暴化した猫は、飼い主さんが飼い猫の勢いにのまれて逃げ出すと、獲物を追うように追いかけて来ます。子供はこれが原因で怪我をするケースが多いです。
直接猫に触れると、噛んだり引っ掻いたりされて怪我をするため、段ボールやお風呂の蓋を使って隔離する場所へ誘導して下さい。この際、猫と目を合わせてはいけません。
猫は目を合わせる行為が開戦の合図なので、腰から尾の辺りを見ながら対応しましょう。また隔離ができたら、飼い猫が落ち着くまで声は掛けずにしばらく放置しましょう。興奮状態は時間が解決してくれます。
美しく賢いアビシニアンが狂暴化する姿を見たい飼い主さんはいないでしょう。そこで狂暴化する前に日頃から行うべき対策をご紹介します。
まずアビシニアンには充分に運動をさせることが重要です。アビシニアンは身体能力が高い猫種のため、一般的な猫が遊ぶ時間は10分~20分に対し、アビシニアンは30分以上体力が続きます。
またアビシニアンが遊びに誘ってきたら、できる限り遊んであげましょう。アビシニアンは運動が大好きなので、たくさん体を動かすことでストレスを発散できます。
猫は犬のように人間の都合に合わせて甘えることは滅多にありません。しかしアビシニアンは甘えん坊な性格のため、他の猫種と比べて飼い主さんが積極的にスキンシップを取ることを好みます。
また寂しがりの上に神経質な性格のため、1人暮らしの人が飼育をすると1匹で過ごす時間が耐え切れず、問題行動を起こしやすいです。そのため、常に家に人間がいる3世代以上で暮らしている家庭での飼育がおすすめです。
またアビシニアンは神経質で嫉妬深い性格から、多頭飼いに不向きな猫種です。兄弟や親子でない限り、同じ猫種では飼い主さんの取り合いで喧嘩をすることも多いです。
もしアビシニアンと他の猫を同居させる場合は、社交的でおおらかな猫種を選ぶと良いです。アメリカンショートヘアやメインクーンは人懐っこく遊び好きな猫種なので、良い遊び相手になってくれることでしょう。
アビシニアンを飼育する場合は、オスがおすすめです。子猫の時期は大差がなく、どちらも活発に行動します。その後、成猫になるとオスは落ち着きが出て、大人しくなります。
一方メスは、活発でやんちゃな面が成猫になった後も続く傾向があります。また猫はメスの方が性格が強く、オスが強引な行動を取ろうとすると頭を叩いたり、「シャーッ」と威嚇したりします。
その際、オスは力で捻じ伏せようとはせずにメスの機嫌が直るまで待てる猫が多いです。その後はオスがメスに甘えるような仕草を見せ、いつも通り仲良く遊びます。筆者が飼育している猫達はこのように共存をしています。
この性質は猫種を問わないので、初めてアビシニアンを飼う人はオスの方が飼いやすいです。
狂暴化したアビシニアンは以前の状態に戻ることが可能か、不安に思う飼い主さんもいらっしゃるでしょう。これは狂暴化した原因を突き止めれば治すことも可能です。
猫は不妊手術をすると大人しくなり行動力が低下するため、未去勢、未避妊の場合は除去手術を施すだけでも狂暴化による問題行動が抑えられるケースが多いです。
また、ある特定の場面で狂暴化する場合は、その原因を極力取り除きましょう。例えば窓の外に猫を発見し、転換行動で飼い主を襲う場合があります。
この場合、高い柵を設置したり中型犬以上の体格の良い犬種を外に出したりして、家の周りに外猫が来ないための工夫をしましょう。また飼い猫と外猫の目線が合わないように、窓の下部に目隠しシートを貼っても良いです。
また狂暴化した事例として、里帰り出産をした赤ちゃんを自宅に連れて帰ったところ、飼い猫のアビシニアンが狂暴化したケースがあります。このケースの原因は、突然現れた赤ちゃんに対する敵意と嫉妬です。
この場合、赤ちゃんに対面させる前にその赤ちゃんの匂いがするタオルやシーツ等を飼い猫に嗅がせておけば、赤ちゃんと飼い猫が初めて対面する時に、飼い猫は落ち着いた態度を示すことができます。
人間を傷つけた動物は殺処分されるケースがあります。犬は人を殺傷する力があるので、場合によっては直ぐに殺処分されることもあります。そして猫も飼い主さんや獣医師の判断によって安楽死をした例があります。
飼い猫が狂暴化する場合、病気や環境等の様々な理由がありますが、性格やストレスの度合いによっては、暴れることでしか表現できないこともあります。
筆者は今まで10匹を超える猫を飼育しており、職業柄多くの猫と接してきました。その猫達の中には狂暴化してしまう猫もいました。そんな猫たちは慣れない環境や人間との接触等に恐怖に怯え、威嚇することが多いです。
そのため動物を取り扱う仕事に従事している人は、狂暴化した猫を直接触りません。そして狂暴化した猫が暴走し、あらゆる対策を講じても改善が見られない場合、獣医師は安楽死を勧めます。
しかし獣医師は動物の病気のプロであり、トレーナではありません。飼い猫が狂暴化した場合、身近な獣医師に相談される人も多いですが、彼らはしつけに関する知識は病気に関する知識に比べるとさほど多くはありません。
飼い猫の狂暴化で悩んでいる人は自分の安全を確保するために隔離してから、獣医師だけでなく、アビシニアンのブリーダーやトレーナーに相談するのも良いでしょう。
但し、アビシニアンのブリーダーや猫のトレーナーは少ないので、SNSで同じ悩みを持っている人の意見や体験談を聞くと参考になります。
筆者は初めて猫の去勢手術をする際、獣医師の説明があまりに簡易的だったので不安に思い、周囲で猫を飼っている知人だけでなく、SNSでも呼び掛けて多くの飼い主さんから体験談を伺いました。
アビシニアンが飼い主さんでは手に負えない程狂暴化した場合は、1人に相談するのではなく、できるだけ多くの人に相談して多くの情報を得ることが大切です。考え方は十人十色です。
それらの意見を踏まえた上で、最終的な決断をして下さい。飼い猫の狂暴化は飼い主さんにとって非常に辛く悲しいことでしょう。
まずは怯えることなく冷静に対応して下さい。そうすれば見えなかった原因が見抜けるかもしれません。