犬の前十字靭帯断裂を解説!症状・原因・治療・予防を知る

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前十字靭帯断裂とは?

前十字靭帯(ACL)は、犬の膝関節に位置し、大腿骨と脛骨を結ぶ重要な靭帯です。この靭帯は、膝関節の安定性を保つ働きをしていて、正常に歩行し、走るためには不可欠です。ACLが断裂すると、関節の安定性が失われ、激しい痛みと運動機能の低下が生じます。

前十字靭帯断裂は、犬の整形外科的問題の中でも特に一般的なものであり、特に中~大型犬に多く見られます。前十字靭帯断裂を経験する確率はかなり高く、飼い主様にとっても注意が必要な問題です。

前十字靭帯断裂の原因

前十字靭帯断裂の原因は様々ですが、一般的には過度な運動や突然の激しい動きが主な原因とされています。特に、走行中の急な方向転換や高い所からのジャンプなどがリスク要因となります。また、関節に対する慢性的な負荷や老化による靭帯の劣化も、断裂の原因として挙げられます。

特定の犬種では前十字靭帯断裂のリスクが高いことが知られています。例えば、ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラー、ゴールデン・レトリーバーなどの大型犬種が特にリスクが高いとされています。また、小型犬でも、ジャック・ラッセル・テリアやコッカー・スパニエルなど、一部の犬種は断裂のリスクが高いです。

年齢と体重も前十字靭帯断裂に影響を与える要因となります。特に中高年齢の犬や、体重過多の犬では前十字靭帯にかかる負担が増え、断裂のリスクが高まるため注意が必要です。

前十字靭帯断裂の症状

前十字靭帯断裂の初期症状には、突然の跛行や足を引きずる動作が見られます。愛犬が急に活動を控えるようになったり、歩行中に後ろ脚を地面につけたがらない場合は、前十字靭帯断裂の可能性があります。また、膝関節周辺の腫れや痛みも初期症状として現れます。

断裂が進行すると、犬は持続的な痛みを感じるようになり、運動を極力避けるようになります。さらに関節の不安定性が増し、膝関節が変形することもあります。最終的には、患部の筋肉が萎縮し、犬の運動能力が大幅に低下します。進行した症状を放置すると、関節炎や他の二次的な問題も引き起こす可能性があります。

飼い主様が前十字靭帯断裂の症状を見分けるためには、愛犬の歩行パターンや動作に注意を払うことが重要です。特に、後ろ脚を引きずったり、歩行中にスキップするような動作を見せる場合は、前十字靭帯断裂の疑いがあります。早期発見が治療の鍵となるため、異変を感じたら速やかに獣医師に相談しましょう。

前十字靭帯断裂の診断方法

前十字靭帯断裂の診断には、まず視診と触診が行われます。視診では、犬の歩行や姿勢を観察し、異常がないか確認します。触診では、膝関節を手で触れて異常な動きや痛みの反応を確認します。これにより、断裂の可能性を高める重要な手がかりを得ることができます。

視診と触診で断裂の可能性が高い場合、画像診断を行います。関節の状態を詳しく確認するためにX線検査を行い、骨の異常や関節炎の有無を確認します。場合によっては、前十字靭帯の損傷をより詳細に評価するためにMRI検査を行うこともあります。

他にも、関節鏡検査を行う場合があります。関節鏡検査とは、関節内に小さなカメラを挿入して直接靭帯の状態を確認する手法です。診断と同時に治療も行えるため、前十字靭帯断裂の場合には特に有効です。

前十字靭帯断裂の治療法

・保存療法
保存療法の一環としてリハビリテーションが行われます。これは、筋肉の強化や関節の柔軟性を向上させることを目的としています。ストレッチングや軽い運動を通じて、関節の安定性を回復させることができます。

・薬物療法
痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛薬が処方されることがあります。これらの薬物療法により、犬がより快適に生活できるよう支援し、リハビリテーションの効果を高めることが期待されます。

・外科手術
前十字靭帯断裂の根本的な治療には、外科手術を行う必要があります。術式は複数あり、最も一般的な方法は、「脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)」と「脛骨粗面前進化術(TTA)」です。

TPLO:脛骨の一部を切り取って再配置し、膝関節の安定性を回復させる方法です。現在、前十字靭帯断裂では最も治療成績のいい治療法と言われています。

TTA:脛骨の一部を前方に移動させ、膝関節にかかる力を分散させる方法です。この手術も、膝の安定性を向上させる効果があります。

〈手術の流れと術後のケア〉

手術の前には、詳細な術前検査が行われます。これは、犬の全身状態を確認し、手術に対するリスクを最小限に抑えるためです。手術自体は全身麻酔下で行われ、通常1〜2時間程度で完了します。

術後は、特に初期段階での安静が重要です。手術後は数日間の入院が必要で、毎日獣医師による経過観察が行われます。退院後は、ご自宅でのケアが必要となります。具体的には、以下のようなケアが求められます。

傷口の管理:傷口が感染しないように清潔に保ち、指示された通りに消毒を行います。

運動制限:手術後数週間は運動を制限し、ゆっくりとリハビリを開始します。急激な運動は避け、徐々に歩行距離を増やしていきます。

リハビリテーション:獣医師の指導のもと、リハビリを実施します。ストレッチや軽い運動を通じて、関節の柔軟性と筋力を回復させます。

手術後のケアは長期にわたることがありますが、適切なケアを行うことで、犬は元の生活に戻ることができます。

前十字靭帯断裂の治療法を選択する際には、犬の年齢、体重、活動レベル、断裂の程度などを総合的に考慮します。獣医師と相談し、最も適した治療法を選ぶことが重要です。早期に適切な治療を行うことで、犬の回復を促進し、再発のリスクを減少させることができます。

予防法

前十字靭帯断裂を予防するためには、日頃からの適度な運動が欠かせません。激しい運動や急な方向転換は避け、適度な運動を取り入れることで、関節に過度な負担をかけないようにしましょう。また、定期的なストレッチや筋力トレーニングも効果的です。運動は犬の体重管理にも役立ち、肥満を防ぐことで前十字靭帯への負担を軽減できます。

また、肥満は前十字靭帯に大きな負担をかけるため、バランスの取れた食事を提供し、適切な体重を維持することも予防につながります。特に高齢犬や肥満気味の犬には、低カロリーのフードや関節サポートのサプリメントを検討すると良いでしょう。

定期的な健康診断は、早期発見と予防の鍵です。獣医師による定期検診を受け、関節の状態を定期的に確認することで、問題が発生する前に対処することができ、また疾患の早期発見と治療にも繋がります。

前十字靭帯断裂後のリハビリについて

前十字靭帯断裂が起こってしまった場合、手術後のリハビリテーションは、犬の回復にとって非常に重要となります。リハビリを適切に行うことで、関節の柔軟性を取り戻し、筋力を強化することができます。また、リハビリを通じて、再発のリスクを減少させることができます。リハビリは、獣医師の指導のもとで行うようにしましょう。

ご自宅でできるリハビリ方法としては、ゆっくりとした散歩や軽いストレッチなどがあります。これらの方法は、関節に負担をかけずに筋力を強化し、柔軟性を向上させるのに役立ちます。

また、手術後の犬が快適に過ごせるように、生活環境を整えることも重要です。滑りにくい床材を使用することで、犬が歩きやすくなり、関節への負担を減らすことができます。
段差を避けるために、スロープやステップを設置することも有効です。
さらに、犬用のベッドを用意し快適な休息スペースを作るなどの工夫をし、適切な環境を整えることで、術後の早期の回復や、日常生活の質を向上させることに繋がります。

前十字靭帯断裂の治療費用

前十字靭帯断裂の治療費用は、手術の種類や病院によって異なりますが、一般的には数十万円程度かかることが多いです。特にTPLOやTTAのような高度な手術の場合、その費用はさらに高額になることがあります。また、術後のリハビリや診察も必要となるため、これらの費用も考慮に入れる必要があります。
治療費用を事前に把握し、計画を立てることが重要です。

まとめ

前十字靭帯断裂は、犬にとって重大な整形外科的問題であり、早期の診断と適切な治療が重要です。
症状を見逃さず、早期に受診をすることで、愛犬の健康を守ることができます。
また発症の予防のためにも、毎日の適度な運動や栄養管理に加えて、定期的な健康診断を受けるように心がけましょう。

犬の骨・関節の病気一覧

記事監修
動物病院病院 総長 藤野 洋

アニホック往診専門動物病院獣医師 藤野 洋

日本大学生物資源科学部(旧農獣医学部)獣医学科卒業。
卒業後、約20年にわたり動物病院でペットの治療に従事。
2007年(株)フジフィールド創業。動物病院とトリミングサロンのドミナント多店舗展開を行い、複数店舗の開業/運営を果たす。

日本大学生物資源科学部(旧農獣医学部)獣医学科卒業。
卒業後、約20年にわたり動物病院でペットの治療に従事。
2007年(株)フジフィールド創業。動物病院とトリミングサロンのドミナント多店舗展開を行い、複数店舗の開業/運営を果たす。

【エデュワードプレス(旧インターズー)】・トリミングサービス成功事例セミナー講師・トリミングサービス成功ガイド監修・Live trim2018 マネージメントセミナー講師 【メディア】・ラジオ調布FM ペットオーナー向け番組MC・多摩テレビ 「わんにゃんMAP」番組パーソナリティ・j:comジモトピ「世田谷・調布・狛江」出演