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犬の網膜剥離(もうまくはくり)とは、眼球内部にある網膜が脈絡膜からはがれた状態です。
網膜剥離には種類があり、「裂孔原性(れっこうげんせい):網膜に穴が開いたことによる網膜剥離」、「非裂孔原性:網膜に穴が開かないまま起こる網膜剥離」の二種類に分けられ、更に非裂孔原性には牽引性と滲出性があります。
裂孔原性は動物では症例は少ないですが、シー・ズーやラサ・アプソなどの犬種では高確率で自然発生しやすいとされています。
また、網膜剥離の症状は飼い主が気付くころには両目の網膜に広範囲で剥離が起こっている場合がほとんどで、片目や一部のみでの症状は現れにくい為、気付くことは難しいといいます。
その為、目の前のものや家具にぶつかる、歩くとしきりに地面を嗅ぐ様子がある、不安そうにおどおどしながら行動する、ものを目で追う様子がないなどの症状が見られ始めた頃には失明をしている場合がほとんどで、他の症状としては網膜剥離により眼内出血が引き起こされた際には黒目の部分が赤く見える事もあります。
原因はいくつかあり、遺伝によるもの、あらかじめ抱えている病気による誘発、外傷によるものとがあります。
遺伝的に眼球の異常を発症しやすい犬種を具体的に挙げると、水晶体の脱臼を起こしやすいテリア種、水晶体の液化を起こしやすいシーズー、視神経コロボーマを起こすコリー、網膜形成不全を起こしやすいラブラドールレトリバー、サモエド、ベドリントンテリア、オーストラリアンシェパードなどです。
あらかじめ抱えている病気による誘発の場合、具体的な病名に糖尿病、進行性網膜萎縮症、牛目を伴った緑内障、高血圧、甲状腺機能低下症、赤血球増加症、ぶどう膜炎、白内障、水晶体脱臼などが挙げられます。
外傷が原因であった場合、繰り返し頭部に衝撃を受けることによって発症するパターンは稀ですが、白内障の手術に伴う医療性の外傷は時々見られます。
治療方法は網膜剥離の型によって変わります。
裂孔原性や牽引性のような部分的な網膜剥離の場合、それ以上の剥離の進行を予防するためにレーザー治療によって網膜を固定する光網膜凝固術が行われ、片側の目で網膜剥離が起こると残った正常の目も将来網膜剥離になる可能性があったり、白内障などの眼内手術後に網膜剝離を起こすケースも多い為、これらのケースに該当する犬に対し予防的に行うこともあります。
広範囲或いは完全な網膜剥離の場合は治療を行わないことが多いものの、適応であれば網膜硝子体手術により網膜を再度つけることができます。
ただし、この手術が可能な設備や獣医師をそろえている動物病院は全国でもかなり限られてしまうこと、すべての施術例で視力が回復するわけではないこと、ほかの眼内手術同様に合併症が起こる可能性もあるという問題やリスクもあります。
滲出性の網膜剥離の場合は、高血圧や脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)などの炎症が原因となっているので網膜剥離の原因となっているそれぞれの病気の治療を行います。
例えば、高血圧には血圧降下剤や高血圧の原因になっている病気の治療、脈絡網膜炎や眼内炎の原因に対する治療、具体的に腎不全や心不全などが原因の高血圧であればそちらの治療を行い、免疫に関わる疾患であれば免疫抑制剤を、細菌やカビなどの真菌が原因であれば抗生剤や抗真菌剤などが処方されたりします。
予防策としては、遺伝的な原因以外は症状の原因となる疾病の早期治療や、外傷の元となる原因を生活から取り除くなどの対応が必要となります。
網膜剥離は状態がかなり進むまで症状に気付くことは非常に少ない疾患なので、事前に定期的な眼の検診を行い、行動や様子に異常が見られた場合はすぐに動物病院に連れていくようにしましょう。